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イノベーションと反脆いもの、もしくは『反脆弱性』感想

今回の記事は、ナシーブ・ニコラス・タレブ『反脆弱性』についての感想を掲載します。

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前回のブログ記事でブログ更新を一時休止するとお伝えしましたが、今後読書にいそしむにあたり、読書録をつけるのであれば、ブログを利用したほうがよいと思い、随時更新することにしました。

反脆弱性とは何か


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『反脆弱性』において「反脆い」愛情を描いているとされている小説『失われた時を求めて』のなかの「スワンの恋」。美術商のスワンは、オデットに冷たくあしらわれて、さらに独占欲を駆られる。

「反脆弱性」という言葉は、その対義語である「脆弱性」といっしょに理解することが不可欠です。脆弱性とは、変化や不確実性が原因となって損失を被る性質を意味します。対して反脆弱性は、変化および不確実性から利得を得る性質です。ちなみに、変化および不確実性から損失も利得も被らない性質は「頑健」となります。

脆弱性と反脆弱性の事例は数多く挙げることができます。わかりやすいものとしては、「脆い」友情と「反脆い」愛情があります。友情はヒトの互恵的な関係ですが、その関係が安定しているあいだは、互いに利得を得ます。しかし不安定になると、時に壊滅的な損失を被ります。対して「反脆い」愛情は、関係が不安定なほうが当事者の感情を劇化させます。「道ならぬ恋」とような文学的モチーフは、愛情の反脆い性質を描いているのです。

歴史と反脆弱性


この反脆弱性と脆弱性の対概念は、実のところ、未来予想に活用することができます。「未来予想」という言葉で想像することは、「現在」より性能のよい製品やサービスに満ち溢れた世界、と考えるのがふつうです。しかし、未来には他の側面もあります。すなわち、未来においては脆いものは滅んでいるだろう、ということです。

脆弱性の定義とは、「変化や不確実性から」損失を被る性質、ということでした。この「変化や不確実性」のもっとも身近なものが、「時間」です。つまり、脆いものは時間が経てば必ず壊れなくなるのです。そういうわけで、未来とは現在に何かが追加されたものと考えるよりは、脆いものがなくなった世界、と捉えるのがより確実な見方なのです。

未来において脆いものが滅んで生じた空白は、おそらくは相対的に滅んだものより反脆い性質のものによって補充されることが多いと考えられます。しかし、その「反脆い」ものが具体的に何であるかは、容易に予想できません。というのも、あるものが「反脆い」かどうかは、「変化や不確実性」すなわち「時間」の試練に曝されることで確かめられるからです。簡単に言うと、「反脆い」ものは、歴史のなかで生き残ったものなのです。

まとめると、未来を予想するうえでより確実なアプローチは、「反脆い」ものを追加するよりは「脆いもの」を取り除く「引き算的なアプローチ」が有効、ということになります。

イノベーションと反脆弱性


以上の反脆弱性から見た「引き算」の未来予想は、イノベーションの実現に応用できそうです。イノベーションは、まずは破壊することから始めればよい、ということになります。脆いものはどの道こわれるのですから、人為的に早くこわして「反脆い」ものに置き換えたほうが、経済的にも倫理的にも正しいでしょう。このアイデアにもとづけば、イノベーションとは人工的に「時の試練」「自然淘汰」を起こすこと、と言うことができます。

無論、脆いものと置き換える反脆いものは、すぐには見つけることはできません。しかしながら、著書『反脆弱性』には、反脆いものを見つけるために「変化や不確実性」を人為的に発生させる方法が提案されています。その方法が「つつき回し」です。

「つつき回し」とは、一言で言えば試行錯誤です。「よさそうなアイデアはどんどん試せ、そして、成功するまで失敗しろ」という戦略です。「つつき回し」は、まさに自然淘汰を加速させるアプローチです。たくさん産んでたくさん死んだ末に、生き残るものを見つける、というわけですから。

こうしたつつき回しが成功している実例こそが、シリコンバレーのビジネスシステムです。Googleのプロジェクトでは、よく「早く失敗しろ」ということが言われるそうです。生き残る「反脆い」アイデアをより分けるには、無数の「脆い」アイデアを壊すことが不可欠なのです。

著書『反脆弱性』を読むと、ともすれば仕様や性能の上位互換のように捉えられてしまうイノベーションを、「自然の摂理」から見直すという治療効果が期待できます。

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『これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』』書評

今回の記事は、書籍 『これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』』のレビューを掲載します。

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インプレスR&Dから出版された上記書籍は、今年7月にNHK出版から出版された『〈インターネット〉の次に来るもの』のダイジェスト版にあたります(以下、「ダイジェスト版」という表記でインプレスから出た書籍を、「完全版」という表記でNHK出版から出た書籍として、略記します)。

冒頭に書かれている訳者の服部桂氏の説明によると、ダイジェスト版は2016年7月14日にアメリカのロング・ナウ協会で行われた完全版についてのケヴィン・ケリー氏本人による講演会の資料をもとに作成したということです。

講演会が元ネタとなっているだけあって、ダイジェスト版は完全版には皆無だったグラフや画像がふんだんに盛り込まれています。反面、情報量は大幅に絞り込まれ、完全版だと40〜50頁に渡り詳細に検討されているテクニウム(ケヴィン・ケリーが考える自律的に進化するテクノロジーの総体)のメカニズムが10行程度に圧縮されています。そのため、ダイジェスト版を読破するには、1時間もあれば十分です。

以下に良い点、不満な点、そしてブログ作者のコメントを述べます。

良い点


テクノロジーが進化する12の方向性相互の関係がより明確に


完全版ではあまりの情報量の多さに、12から成る章の相互関係がわかり辛いと印象を持ちます。各章の質・量ともに圧倒的な記述について行くのがやっとで、他の章との関係に思いを巡らすことなど出来ないのです。

ダイジェスト版では、各章の記述はエッセンスのみに絞り込まれ、代わりに章相互の関係を明確にするような記述が目立ちます。

・「物事が液状化すれば、モノを所有するよりアクセスすることの方が大事になっていく」(ダイジェスト版 p73)
・「これからはシェアが可能なものはなんでもシェアされる方向に向かっていくと考えられる」(ダイジェスト版 p82)

上記の記述は、「4. ACCESSING」と「5. SHARING」に見られるのですが、シェアはアクセスできるようになって初めて可能となるというような章をまたいだ記述の流れが見えてきます。

直観的な理解が可能に


やはりグラフや画像があると、文字による論述を俯瞰するような視点が得られるものです。

例えば、ブログ作者も出席した日本の講演でも使われたAIと人間の知性の違いを図解した以下の図は、何度見ても秀逸です。

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ダイジェスト版p34より引用

質問と答えのあいだにある原理的に埋まらないギャップを図解した画像も魅力的です。

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ダイジェスト版p142より引用

不満な点


情報量が少なすぎ


身も蓋もないのですが、やはりダイジェスト版は完全版の代替物ではありません。時間と根気があるなら、完全版を読んだ方が得るものはたくさんあります。

はじめにダイジェスト版を読んでから、興味をもった章について完全版にトライする、あるいは完全版が分かりにくいと思ったら、ダイジェスト版で大略をつかむ、みたいな読み方が生産的なように思います。

ちなみに、訳者の服部氏は、ダイジェスト版は完全版のサブテキストだと述べています。

原作者によるツアーガイドと旅行記としてのインデックス作り


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ブログ作者にとって『〈インターネット〉の次に来るもの』は、テクニウムというアイデアから作ったコンパスを使って旅する未来の世界地図のようなものです。未来の地図なので、未来が現実となった時には本で描かれた通りというわけにはいきませんが、テクニウムというコンパスが指す方向性はおおむね正しいと言えそうです。

『これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』』は、そんな未来の世界地図に関する原作者自身が書いたツアーガイドだと捉えています。大まかな景色は見えますが、細かいところまではわかりません。

そして、
現在ブログ作者が取り組んでいるインデックス作りは、そうした「フューチャー・マップ」の旅行記です。この旅は、「テクニウム・コンパス」を手にして、写真を撮ったり日記を付けたりして描かれます。旅の記述は、極めて個人的なものですが、それだけに「リアルな」経験と言えます。

インデックス作りは、本当に自分の備忘録として作成しているに過ぎません。ですが、不特定多数の人々がアクセスできるようにすることで、シェアできる旅行記なのです。完成までにもう少し時間がかかりそうですが、気長に旅行します。

『アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか?』感想

 今日の記事は、書籍を批評するブックレビュー記事です。
レビューする書籍は『アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか』です。

アップルグーグルが神になる日 

総合評価 ★★★☆☆ (星5つ満点中星3つ)

書籍のタイトルからは直観的に分かりませんが、IoT(Internet of Things モノのインターネット)についての本です。本の内容は、タイトルの表現が何を言っているかを説明するば要約できます(以下、批評する書籍を便宜上『アップル〜』と略記します)。

本の主張はふたつに集約できます。ひとつめは、BLEやiビーコンといった新しい通信技術が開発されたことにより、生活家電間の連繋=IoTが可能となることから、ビジネスモデルが変化することです。IoTが可能となると、個々の製品の機能より、製品間で連繋することによってユーザに提供できるサービスがセールスポイントの中心となります。そして、個々の家電を製造するメーカーより、IoTを可能とするプラットフォームを構築する企業こそが市場の覇者となるのです。ユーザは、IoTを可能とするプラットフォームを保有する企業の良き消費者であれば一定の恩恵に与ることができますが、プラットフォーム提供企業が定めた規則に違反すれば、そうした恩恵を受けられなくなります。プラットフォーム提供企業とユーザの関係は、かつて宗教が政治と経済を治めていた頃の宗派と信者の関係に似てきます。以上のことが「アップル、グーグルが神になる日」の真意です。

ふたつめの主張は、IoTが実現した暁には、ユーザにとって真に重要なのは個々の家電ではなく、IoTによって共有されているユーザデータとなります。それゆえ、ネット上にクラウドデータとして存在しているユーザデータの同一性さえ確保されていれば、そうしたデータの出入り口でしかないハードウェアは廃棄されてもよいものとなります。ハードウェアの実質的な寿命は、せいぜい次回のアップデートまでに過ぎないのです。以上が「ハードウェアはなぜゴミなのか」の真意です。

UX_convert.jpg 

ブログ作者のとしては、ひとつめの主張にはおおむね同意します。ITサービスを評価する尺度は、高品質•多機能を謳いあげるユーティリティから、使い勝手=ユーザビリティ、さらにはサービスがもたらす体験がユーザを満足させるかというユーザエクスペリエンス=UXに移行しているのは、もはや周知の事実です。にもかかわらず、『アップル〜』ではIoTの実現によって可能となるUXに関しては、現時点では多いとは言えない事例と書籍作者のおもいつきの羅列に留まっている印象があります。もっともIoTが普及していない現時点において、IoTによって可能となるUXを体系的に分析することを求めるのは、少し酷なのかも知れません。

ふたつめの主張に関しては、ブログ作者は多いに反対せざるを得ないです。というのも、IoTをも含めたITサービス全般がもたらすUXの性質を決定する大きな要因に、ハードウェアデザインがあるからです。ハードウェアは、ユーザとデジタルデータの相互作用のあいだにある透明な窓ではありません。ハードウェアは、ユーザがITサービスを享受する際の体験を特徴づけるメディアなのです。メディア論者のマクルーハンの有名な言葉で「メディアはメッセージである」をもじって、「ハードウェアはメッセージである」と言った方が、ブログ作者が言いたいことが伝わるかも知れません。そして、アップルとはこの「ハードウェアのメッセージ」を作るのが世界一うまい企業なのです。
 ※あえて厳密を期せば、「ハードウェアのメッセージ」という表現で「ハードウェアが物体化するユーザインタフェースがもつアフォーダンス」を言おうとしています。

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ブログ作者としては、IoTが普及する際に直面する困難とは、家電間の連繋を最適化するハードウェアデザインを設計することにあると捉えています。既にリモコンで操作しているエアコンや、(『アップル〜』の作者がしきりに引き合いに出す)比較的ユーザが操作するタイミングの少ない照明をIoT化するならば、IoT化したい家電をスマホで操作できるようにすれば実現すると思われます。しかし、キッチン器具のようなユーザが手で操作するような製品をIoT化する時には、スマホディスプレイで一元管理するアプローチでは失敗するでしょう。食材の温度を計測するセンサーをフライパンに実装したとして、その温度をスマホに表示するのは余りに馬鹿げた設計です。IoTを万物をスマホに連繋させることとして解釈することの弊害は、例えばコンピュータ科学者の大家ネグロポンテもTEDで指摘しています(その時の動画は、こちら)。

『アップル〜』は、IoTがもたらすUXの掘り下げが浅いことと、ハードウェアのメッセージという論点が見事に欠落しているので、総合評価は星5つ中星3つです。とは言え、この書籍はIoTを可能とする技術的背景を知るには、よくまとめられた良書だと思われます。

手で操作する製品をIoT化する際のデザインアプローチに関しては、本ブログの連載記事『表面世界の行方』の来週の掲載記事で詳しく論じますので、興味のある方は読んで頂けると嬉しいです(以上、ステマでした(笑))。

【関連記事】
表面世界の行方 (12) TUIの世界
表面世界の行方 (13) AppleWatch開発秘話


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吉本幸記

Author:吉本幸記
元エンジニアのフリーライター。テクノロジー系の記事を執筆している。アートにも関心がある。美術検定3級取得

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