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『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』 感想 ※ネタバレなし

今日の記事は、美術展を紹介するレビュー記事です。
今日紹介する美術展は国立新美術館で開催されている『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』です。

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総合評価:★★★★☆(星5つ満点中星4つ)

『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』は、その名の通りいわゆる「クールジャパン」と総称される造形分野の歴史を1989年から通覧することを主題とした美術展です。なぜ1989年を起点としているかというと、この1989年こそ手塚治虫が死去した年だからです。この美術展は、手塚治虫が築いた礎から「クールジャパン」的なものが成熟していく約四半世紀を各分野の代表作を展示して図解することを試みています。

ブログ作者は「クールジャパン」的なものについて一般的なヒトより少し慣れ親しんでいる程度の人間なので、ガチの「オタク」ではありません。オタクならざるブログ作者が、美術展で展示している個々の作品についてコメントを付したところで、顰蹙を買うのが関の山です。ただ幸いなことにこの美術展には、開催に合わせて刊行された公式ガイドブックがあります。このガイドブックは2500円とやや値が張りますが、門外漢でも各分野の歴史を通覧できる非常に完成度の高いものとなっています。そこで以下では、ガイドブックに記載された論文をもとに、「クールジャパン」を2つの切り口から分析していきます。その2つの切り口とは、ステーリーテリング、テクノロジーです。

ストーリーテリング
(参考資料:『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』所収「メディアの横断と物語の変容」 大橋嵩行)
マンガ、アニメ、ゲームをサブジャンルとする「クールジャパン」的なものには、ジャンルの垣根を超えて共通に認められるストーリーテリングにおけるモチーフが指摘できます。
そうしたモチーフには「ファンタジー」「恋愛」「美少女戦士」が挙げられます。そして、この3つのモチーフのどれもが、起源に遡るとゲームに行き着きます。

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左の画像はトールキン生誕100周年の記念に刊行された『指輪物語の挿絵を描いたアラン•リーの作品。アラン•リーは映画『ロードオブザリング』のアートディレクターも務めている。右の画像はゲーム『ファイナルファンタジー』のパッケージ画像を描いた天野喜孝の作品。「剣と魔法の世界」を日本に輸入するにあたり、ビジュアル的には後述する空間を面的に捉える西洋的3D世界観から線的に捉える日本的2D世界観への翻訳が認められる。

中世ヨッローパ風のビジュアルによって構築される「ファンタジー」ものの起源は、当然ながら『指輪物語』や『英雄コナン』といった西欧のヒロイック•ファンタジー小説に求められます。ただし、このような小説群を愛読していたのは、一部のマニアでした。ファンタジーものが日本に定着する契機となったのは、PCゲーム『ウィザードリィ』に影響された『ドラゴンクエスト』、ならびに『ファイナルファンタジー』といったゲームでした。ちなみに『ウィザードリィ』は、『指輪物語』をゲームで再現しようとしたTRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』の数値計算をコンピュータで実行させようとして誕生したのでした。ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』は今日で言うところの「JRPG」の起源となり、近年発表された『パズル&ドラゴンズ』『妖怪ウォッチ』はこうした「日本化されたファンタジー」の土壌から生まれたのです。

残るモチーフである「恋愛」と「美少女戦士」にも、その起源にゲームが指摘できます。「恋愛」については『ときめきメモリアル』が後続する恋愛シミュレーションの元祖でした。「美少女戦士」のモチーフの最たるものには『美少女戦士セーラームーン』があります。セーラームーンの世界観の直接的な祖先は、いわゆる実写の戦隊ものシリーズです。しかしながら、当時既にJRPGを介して定着していた主人公たちが敵を倒していくというゲーム的ストーリーテリングの影響も無視できません。「美少女戦士」は後に『カードキャプチャーさくら』『魔法少女まどか☆マギカ』に受け継がれます。

テクノロジー
(参考資料:『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』所収「日本のCGアニメーションはなぜ独特なのか?」 大口孝之)
日本は、手描き風3Dアニメとデジタルアニメが同時に制作されている世界的に見て特異な市場です。その理由には、二つあります。

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左の画像は『アナと雪の女王』。右の画像は『シドニアの騎士』。『アナと雪の女王』の画像は、滑らかな陰影、輪郭線の不在といった西洋絵画の伝統が認められる。『シドニアの騎士』には、平板な陰影、輪郭線の強調といった日本画および浮世絵の伝統を読み取ることができる。

理由のひとつめは、日本のアニメの原作には手描きのマンガが多いことです。手描きのマンガを原作としているので、リアルなデジタル3Dアニメを作ると原作ファンに「コレジャナイ」とそっぽを向かれてしまいます。こうした状況のなか、手描きの風合いを残しつつ、デジタル化によるアニメ制作の合理化を両立させた手法として開発されたのがトゥーンシェーディングです。この手法は、デジタル3Dのように完全に滑らかな陰影をつけず、セル画調の段階的な陰影を施したうえで輪郭線を加えるものです。トゥーンシェーディングの手法を用いたアニメは近年増加傾向にあり、最近では『シドニアの騎士』があります。

理由のふたつめは、民族的な伝統です。日本のマンガおよびアニメ表現は、その起源を辿れば大胆な省略と平板な塗り、そして輪郭線による画面構成を特徴とする浮世絵や日本画があるという見方です。

対して西洋の絵画表現は、ルネサンス以降遠近法が支配的になったために、二次元的事物であるキャンバス上に面から構成される三次元的世界を構築する方向で発展しました。今日の主要な3Dモデリングアプリも、その設計思想の根底には遠近法があります。最近の脳科学の研究結果によると、西洋発祥の面による空間認識と日本的な線によるそれでは働いている脳の部位が異なることが分かってきました。つまり、日本における2D的なものへの偏愛は、歴史的•民族的な背景が契機となって生理的なレベルで刷り込まれた結果である可能性があるのです。

「クールジャパン」的なものを扱った美術展では、『ジョジョ展』『ONE PIECE展』のような個別の作品を対象としたものがあったものも、ひとつの造形運動として歴史的に捉えるものはもしかしたら今回が初めてではないでしょうか。現在進行形の造形運動である「クールジャパン」を振り返る『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』は非常に価値のあるイベントです。

もっともブログ作者としては、多少不満に感じたことがあります。不満はふたつありまして、まずひとつは公式サイトが存在しないことです。国立新美術館のサイト内に美術展を紹介するページがありますが、率直に言ってビジュアル的完成度が低いです。もうひとつの不満が、「クールジャパン」が国際的に拡散していく歴史についての観点が抜けていることです。周知のように、日本のマンガ•アニメは海外のクリエイターにも影響を与え、最近では海外で再解釈された「クールジャパン」が輸入されたりもしています(最近では映画『パシフィック•リム』が該当します)。こうした不満点があるので、星がひとつ減って、総合評価は星4つです。「クールジャパン」の国際的拡散については、また違う美術展でぜひとも集中的に特集して欲しいものです。 


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デンマーク国立美術館開催『Cosplayer! Manga Youth』展 海外ブログレビュー

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今後のブログ更新方針について

 本日の記事は今後のブログ更新方針について報告します。

ブログを開設して、1ヶ月余りが経過しました。
様々な意味でブログ作者の期待に反した反響がありました。
そのような反響を踏まえて、つきましてはブログ更新方針を再策定します。

今後は、以下のようにブログを更新していきます。

更新周期1週間ごとに更新します

更新日毎週日曜から水曜のあいだに記事をアップします

更新記事:記事は以下の内容のものをアップします。

1.海外レビュー記事:海外ブログを紹介する記事です。場合によっては、以下のレビュー記事と関連する内容となります。

2.レビュー記事:マンガ、映画、美術展等をレビューします。

3.不定期長期連載記事:ブログ作者が興味のあるトピックに関して、複数回に渡って記事を執筆します。

記事の更新は、上記3つの記事ジャンルのいずれかをアップします。

記事ジャンルごとの執筆頻度:記事ジャンルには、執筆される頻度に違いがあります。

海外レビュー記事:頻度高。ほぼ毎週アップします

レビュー記事:頻度並。取材の都合により、休載する週があります

不定期長期連載記事:記事が執筆できたら、報告します。現在、準備中です。

ちなみに6/29〜7/1には、現在国立新美術館で開催されている『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム』についての記事をアップします。


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『マッドマックス、その破壊的ファッションの系譜』 海外ブログレビュー

 今日の記事は、海外ブログニュースを紹介する海外ブログレビューです。
今日紹介する記事は、映画『マッドマックス 怒りのデス•ロード』にまつわる海外ブログニュースの記事です。

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やや投稿された日付(2015/5/30)は古いですが、アメリカ版WIREDの記事では小説家やSF小説雑誌の編集者による鼎談が紹介されています。鼎談参加者が一様に述べているのは、『マッドマックス ヒューリーロード』(英語原題)が描いている世紀末的(英語ではpost-apocalypticと表現します)世界観は、決して時代遅れなものではなく、むしろ核戦争の恐怖と可能性をいま一度思い起こさせるものなのです。

もっとも、鼎談者のひとりであるカリー•ヴォーガンは、現在では核戦争の恐怖はエボラ菌やゾンビウイルスの恐怖に取って代われていることを指摘しています。エボラ出血熱は、その高い致死性から昨年世界を震撼させたことは記憶に新しいところです。ゾンビウイルスからインスパイアされた映画には、最近では『ワールド•ウォーZ』がありました。現在でも、現実の問題として韓国でMERSの感染被害が報告されているので、パンデミックの恐怖は確かに核戦争のそれよりは実感し易いかも知れません。

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左の画像はアメリカのボンデージモデルのエミリー•マリリン、右の画像は「メタル•ゴッド」の愛称で知られるヘヴィメタルバンド、ジューダス•プリーストのリードヴォーカルのロブ •ハルフォード

マッドマックスシリーズが醸し出す世紀末的世界観を語るうえで、忘れてはならないのは衣装です。マッドマックス2および3の衣装をデザインしたのは、オーストラリア出身のデザイナー、ノーマ•モリソーです。彼女は、マッドマックスシリーズを手がけた頃から映画コスチュームのデザインのキャリアが始まり、この頃にはセックスピストルズに関する映画の衣装も担当しています。

マッドマックスシリーズの衣装は、様々な先行ファッションを寄せ集めたものです。具体的には、パンクロック、メタルロック、SMのボンデージファッションの影響を受けています。とくにボンデージファッションに関しては、マッドマックスの衣装をデザインしていた頃、モリソーが住んでいた場所の近くにあったSMショップに強くインスパイアされました(この逸話の出典はこちら)。

マッドマックスシリーズ以降にも、モリソーはオーストラリア映画の衣装デザインを手がけています。有名なことろでは、クロコダイルダンディーシリーズ、そして『ベイブ/都会に行く』です。ちなみに『ベイブ/都会に行く』の製作と監督は、マッドマックスシリーズを手がけたジョージ•ミラーです。

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左の画像が『マッドマックス サンダードーム』のティナ•ターナーの衣装、右の画像がクリストフ•デカーニンが2010年春/夏パリコレで発表した衣装

マッドマックスシリーズの衣装は、後のファッションデザイナーにも大きなインパクトを与えました。例えば、フランスのファッションブランドBalmainのデザイナーであったクリストフ•デカーニンは、2010年春/夏パリコレでティナ•ターナーがマッドマックスで着た衣装にインスパイアされた作品を発表しています。ちなみにティナ•ターナーの衣装は、実際に32kgもの重量がありました。

『マッドマックス 怒りのデス•ロード』の衣装デザインを手がけたのは、モリソーではなく、ジェニー•ビーバンです。彼女に取材した
インタビュー記事によれば、一見奇抜に見える衣装にも、終末戦争以降の世界で生き残るための合理的なバックストーリーを考えてデザインしています。例えば、悪役イモータン•ジョーの馬の歯形を模したマスクは、汚染された大気から身を守る機能を果たしているのです。

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イモータン•ジョーのもとから逃げ出す5人の妻たちの衣装は、ミラーが観たあるドイツのバレエ映画のコスチュームにインスパイアされたものです。劇中で唯一美しい肌を露にしている5人の妻たちの衣装は、荒涼とした世界においては健康で若い女性が最も貴重であるという事実を強調しています。

『マッドマックス 怒りのデス•ロード』の衣装は、前世紀のマッドマックスシリーズほど独創的ではないように感じられるものも、改造車とともに荒々しくも厳かな画作りに欠くことのできないものとなっています。本作は、ほぼ前編がカーアクションであるという表面的な特徴とは裏腹に、各分野のプロフェッショナルが集って極めてシネフィル受けする映像美を追求した作品になっているのではないでしょうか。

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『マッドマックス 怒りのデス•ロード』感想 ※ネタバレなし

今日の記事は、映画を批評するレビュー記事です。
レビューする映画は、『マッドマックス 怒りのデス•ロード』です。

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総合評価:★★★★★(星5つ中星5つ満点)

多数の海外テック系ブログニュースサイトで、高い評価を受けている『マッドマックス 怒りのデス•ロード』は、ポスト•アポカリプス(終末戦争後の世界)映画という前世紀を連想される主題を扱いながらも、新しい黙示録的映像美に溢れた作品となっています。以下では、そうした新しい映像を生み出す要因となっている映画の世界観の徹底した作り込みを、主に映画プログラムからの情報をもとにまとめていきます。

CGを使わないガチのアクションシーン

マッドマックスシリーズの生みの親にして『マッドマックス 怒りのデス•ロード』の監督でもあるジョージ•ミラーは、この映画を「物理法則に逆らう類」のものではないとして、あえてCGへの依存を最小限にしています。カーアクションでは実際に車は大破し、スタントマンではあるものも、生身の人間が演じています。撮影シーンの順番も、映画ストーリーの進行順に撮っています。そのため破損した車は、破損箇所を残しながら次のシーンに登場するので、生々しいリアリティが表現されました。

あくまで物理的な映像表現を追求した本作は、一方で極めて現代的な一面もあります。編集が前世紀のマッドマックスシリーズに比べて、格段にペースアップしています。『マッドマックス』および『マッドマックス2』は2時間弱の尺に1200カットありました。対して、ほぼ同じの尺の本作は2700カットあります。画面の切り替え速度が2倍以上になっているのです。ミラーが言うには、現代の観客はCMやミュージックビデオの影響で速いカット割りに慣れているので、ペースアップが可能となったということです。

本作は、映画のほぼ前編にわたりカーアクションが展開するので、セリフが少なくなっています。映像だけで状況を伝える必要があるので、画作りにはかなりの労力が割かれています。撮影前にストーリーボードを3500枚作成し、そのほとんどを映画に採用しています。カーアクションの合間にはさまれる超遠景のロングショットは、歴史画を思わせる完成度に達しています。

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「終末戦争後の世界」に忠実な美術

ミラーは本作の世界観を「必読書」としてまとめていました。そのなかには、対立し合う種族の歴史、風習、序列等が詳細に設定されていました。そうした世界観は一言で言えば「高度文明崩壊後の中世」です。美術監督のコリン•ギブソンは、その世界観を再現すべく奔走します。あらゆる資源が枯渇している状況という設定に従い、廃物を集めてキャストが持つアイテムを作り、スクラップから車まで組み立てました。

キャストのメイクも詳細な世界観が反映されています。本作に登場する戦闘集団ウォー•ボーイズは序列や役割によって、肌の色が異なります。最終的にはウォー•ボーイズのメイクには61種類の肌色が使われました。

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車もキャストの一員

車のデザインにも、世界観が反映されています。美術監督コリン•ギブソンは、作品の世界観に従って車をデザインするために3つの原則を考えました。ひとつは、絶えず闘争状態にある世界なので、軽いカーボン•ファイバーの車ではなくデトロイトで生産されるような頑丈なスチール製であること。ふたつめは、デジタル部品は使わずマニュアルで修理可能なメカニカルな構造であること。みっつめは、資源が枯渇し美など存在しない世界なので、エレガントではなく無骨なデザインを徹底することです。

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最新の撮影技術を駆使したカー•アクション



本作のカーアクションの撮影には、最新の撮影法である「エッジアーム」システムを採用しました。このシステムは、車の屋根にクレーン付きのカメラが搭載されたものです。このエッジアームを撮影する車と並走させて、カーアクションを完成させました。

以上のように新旧の撮影技法を駆使して荒廃した世界を徹底して構築した『マッドマックス 怒りのデス•ロード』は、単なるカーアクション映画の域を超えています。本作は『ブレードランナー』と並びたつ荒廃した世界像を予言する、文字通りのポスト•アポカリプス映画です。

21世紀の現在は、確かに前世紀のような冷戦を背景とした核戦争の恐怖には、かつてほどのリアリティーはないかも知れません。しかし、世界が荒廃するきっかけは、殺人ウイルスのパンデミック、あるいは環境破壊の致命的進行など依然として存在しています。『マッドマックス 怒りのデス•ロード』は、世界から文明が消え去った後に訪れる荒々しい自己保存本能と自己犠牲に象徴されるような良心が鋭く対立する光景を黙示しているのです。
 
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『マッドマックス、その破壊的ファッションの系譜』 海外ブログレビュー


ブログ更新日臨時変更のお知らせ

ブログ更新日の臨時変更のお知らせです。

本日投稿日であるレビュー記事は、明日6/20(日)に投稿します。
また明日投稿する予定の海外レビュー記事は、6/21(月)に投稿します。

6/20、21の記事は、2回に渡り「マッドマックス 怒りのデス•ロード」を特集します。

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表面世界の行方 (15) ウェアラブルとIoTを超えて

 前回の記事では、Apple Watchの開発秘話からエッセンスを抽出してウェアラブル端末とIoTデバイスの設計に役立つタンジブルアフォーダンスデザインの原則を提案しました。
連載最終回にあたる今回の記事では、ウェアラブルとIoTがコンピュータの文化史において如何なる意味があり、さらにこの先どのような未来が展望できるのかについて見ていきます。

この連載記事のはしがきは、こちら
この連載記事の目次は、こちら

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図1 世界様式と表面世界の変遷

 ウェアラブルとIoTという技術トレンドは、物理世界と情報世界の相互作用を本質とするコンピュータのメディア体験の可能性を展開しているに過ぎない市場的イノベーションなのでしょうか。それとも、新たな世界様式を堆積させる歴史的イノベーションなのでしょうか。この問いに答えるには、これまで個別に見てきた世界様式をひと続きの流れとして眺望して、その流れが向かう方向性を理解する必要があります。

 図1は世界様式の変遷を図示したものです。世界様式をひと続きの流れとして眺望してわかることは、人間は文字の発明以来コンピュータ文化が隆盛している現在に至るまで、情報をモノの表面において処理していたことです。電話のような音声複製技術にしても、テクノ画像の意味論で見たように、音声を複製する装置は文字による設計図なしには発明も製造もできないので、モノの表面における情報処理の産物です。それゆえメディア史とは、モノの表面に可視化した情報を物理世界のリアリティーに近づけていく歴史と言えます。こうしたメディア史に通底する特徴は、表面世界化技術の進化とも形容できます。表面世界化技術の進化において、情報を写したモノは質•量ともに増大してきましたが、それでも人間を取り囲むモノのなかの一部に過ぎません。

 ウェアラブルとIoTは、IT機器の活用範囲をかつてないほど拡大する試みである以上、情報に関連するモノ=メディアを進化させてきた表面世界化技術史上において看過できるような出来事では決してありません。それでは、ウェアラブルとIoTがふたつのイノベーションのどちらかという問いには、この技術が情報を制御する範囲をどのような仕方で拡大していくかによって、異なる答えがあるように思われます。あり得る答えは、少なくともふたつあります。

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MIT Media LabではUIを研究しているグループがTangible Media Groupの他にも多数ありfluid interfaceもそのひとつである。fluid interfaceはその名が示す通り、UIを既存の固定的=ソリッドな装置の一部ではなく、流動的=フルーイドなものと捉えたアイデアを多数のデモで実現している。画像はRealty Editorと名付けられたデモ。このデモでは、タブレットのディスプレイに表示された物理的なオブジェクトを、AR技術によって実現したバーチャルなUIを使って制御している。Reality Editorのデモ動画はこちらで見ることができる。fluid interfaceチームが発表した他のデモでは、首に下げたペンダント上の端末からバーチャルなUIを投映して、あらゆるモノの表面にGUIを出現させるsixthsenseがある。これらのデモは、いずれもスマホディスプレイ中心主義の洗練された形態である。

 ひとつめの答えは、ウェアラブルとIoTを「万物をスマホと連繋させる技術」である解釈した現在の体勢的な考えに基づいたものです。この解釈を押し進めると、万物をスマホのディスプレイで制御するライフスタイルを実現する可能性があります。この解釈は言って見ればスマホディスプレイ中心主義です。このイズムは、実は表面世界化技術の最先端形態と言えます。スマホディスプレイが万物を支配する文字通りの物理世界と情報世界のUIになるのです。この場合は、どんなに物理世界と情報世界の相互作用が複雑化•広域化しても、ディスプレイを境目としたリアルとバーチャルの対立は現在と同様に続いていきます。したがって、コンピュータが生んだ世界様式を改変することはありません。ウェアラブルとIoTも、さらに洗練された表面世界化技術によって乗り越えられる市場的イノベーションに留まるでしょう。

 ふたつめの答えは、ウェアラブルとIoTを生活における主要なUIをGUIからTUIに改変する萌芽と解釈した場合のものです。この解釈は、今手にとって使っているモノの在り方に即してデジタル的相互作用を発生させようとする考えに基づいています。この考えは、情報を触知できる立体的なものとして捉えようとするので、情報立体化主義とも言えそうです。このイズムは、人間とコンピュータの相互作用を表面を介したものから立体を介したものにします。これまでバーチャルに関わっていた情報が、言わば手でつかめるようなリアルなものになるのです。ディスプレイを堺目としたリアルとバーチャルの対立に変更を迫るので、情報立体化主義はコンピュータの世界様式に変化を起こす歴史的イノベーションとなり得ます。ふたつめの答えから導かれるウェアラブルとIoTの意義は、この技術は情報立体化主義の嚆矢となった、というものです。情報立体化主義は、革新的なUXをもたらし得ますが、今までにない負の側面も孕んでいます。現在、ディスプレイ上でしか起こっていないハッキング被害が、物理的な出来事として起こるかも知れないのです。

 今後の日常生活におけるデジタル的相互作用経験の拡大を占ううえで、モノを人間=ユーザが操作する方法に基づいてふたつに大別すると、スマホディスプレイ中心主義と情報立体化主義の本質がより鮮明になります。日常生活において人間を取り巻いているモノには、ユーザから離れて機能するモノと、ユーザが手で操作している時に限り機能するモノがあります。前者のモノはリモートオブジェクト、後者はタンジブルオブジェクトと呼ぶのが適切でしょう。リモートオブジェクトの例は、照明、ドアロック、テレビ等です。タンジブルオブジェクトの例は、イス、キッチン器具、情報端末等です。IoTの第一波はは、リモートオブジェクトをスマホディスプレイ中心主義的な設計思想で押し進められるでしょう。というのも、リモートオブジェクトは言うまでもなく遠隔操作と親和性が高いからです。しかし、IoTの波をタンジブルオブジェクトにまで及ぼそうとすれば、設計思想を情報立体化主義に転換することを余儀なくされるでしょう。操作するモノとのデジタル的相互作用を、わざわざスマホで再現するのはナンセンス以外の何者でもありません。とは言うものも、もしかしたらIoTは、リモートオブジェクトにデジタル的相互作用を付加することで収束するかも知れません。

 今後のコンピュータ文化を占うメルクマールは、ウェアラブルとIoTの統合形態と捉えられるスマートハウスがどのように実現するか、ということにありそうです。もっとも、もしかしたら上記ふたつの答えに該当しない新たなイズムが考案されるかも知れませんし、ITの進化自体が停滞する可能性も完全には否定できません。ウェアラブルとIoTがどのように結実するかは、早くて5年後、遅くとも10年で分かるのではないでしょうか。iPhoneが今日の地位を確立するのには、8年を要しました。

 これで連載記事「表面世界の行方」を終わります。この連載記事の真価を評価するためには、スマートハウスが完成するであろう10年後まで待たなくてはなりません。そこまで待たなくとも、ブログ作者としてはこの連載記事の一部を読むことによって、テクノロジーとコンピュータを文明を発展させる動因として捉える見方に気づいて頂ければ、非常に意義深いと思っております。文明史に沈潜して、その沈み込んだ深みからテクノロジーを俯瞰することは、最新のガジェットやアプリに精通することによっては決して見えないものが見えてくるように思うのです。「ナニをエラそうなことを」と思う方は、ぜひブログ作者を罵って下さい。なんなら炎上を起こしても構いません。リアクションこそが、いちばんの賛辞なのですから。

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Tangible Media Groupは記事でも言及したキネティックTUIのデモを継続的に発表している。画像のデモは、2015年に発表されたTransform。このデモでは、ユーザの日常的な行為に応じて形状を変化させるテーブルを実現している。ユーザと物理的なオブジェクトの相互作用をデジタル的に制御しているのである。Transformにおけるテーブルの形状変化は、テーブルを構成している格子状に分割された直方体が上下動することで実現している。Tangible Media GroupではキネティックTUIを実現するために最適な素材の研究もしている。その素材研究の最終的な目標は、分子ひとつひとつを量子コンピュータで制御することで物体を自在に操ることにある。


表面世界の行方 (14) タンジブルアフォーダンスデザイン

前回の記事では、Apple Watch開発秘話を読み解くことで、質の高いUXをもたらすウェアラブル端末を設計するためには、スマートフォンを生み出したGUI的設計からの発想転換が求められることを確かめました。
今回の記事は、前回の記事を踏まえて、ウェアラブル端末とIoTを設計するための指針を提案したいと思います。 

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2015年発売予定のウェアラブル端末”Volvorii Timeless”。ハイヒールに貼られたE-Ink素材が様々な柄を表示する機能を実装している。デジタル処理できる模様というアイデアは、ファッションとテクノロジーの最適な調和を実現しているように思われる。しかし、この端末は柄の制御をスマートフォンから実行しなければならない。制御機構を靴の方に実装することはできないのであろうか。柄を変えたい時に、いちいちスマホを取り出すのが面倒な時もある。端末の詳細はこちらを参照。

 Apple Watchは、それ以前のウェアラブル端末の特徴であった「スマホと連繋するアクセサリー」や「高機能なヘルスメーター」とは一線を画した、真に新しいUXをもたらすデバイスになっています。Apple Watchが革新的なデバイスとなった理由は、ウェアラブルな端末であることの意味を再解釈し、その解釈に沿ってデバイスを設計したからのように思われます。こうしたApple Watchで実践された設計プロセスを一般化すれば、今後のウェアラブル端末とIoTデバイスの設計と評価に役立つのではないでしょうか。以下にApple Watchの設計アプローチからインスパイアされた設計ガイドラインを、タンジブルアフォーダンスデザインと名付けてアフォリズム風にまとめます。なおこの名前は、GUI的設計の限界を超える着眼点として触覚によるUI設計を重視することに由来します。このデザインアプローチは、以前の記事で言及したTUIが言わば設計理念だったに対して、より実践的な意味合いを込めています。

ウェアラブル端末とIoTデバイス設計のためのタンジブルアフォーダンスデザイン7ヶ条

1.汝自身を知れ
そのデバイスは何のために存在するのか。ユーザに何をもたらすのか。デバイスの存在意義は、暫定的にでもいちばん最初に決めるべきです。そして、その存在意義はできる限り熟考すべきです。Apple Watchは存在意義を決める段階で、既存のウェアラブル端末を凌駕することを約束されたようなものでした。この段階で「スマホと連繋する何か」で思考を停止していたら、その後のプロセスがどんなに成功しても凡庸なデバイスしか完成しないのではないでしょうか。

2.心(脳)が先。身体は後。
存在意義が決まったら、次はそれを実現する機能をリストアップします。この段階では、(腕時計とか生活家電といった)開発するデバイスの祖先にあたる装置の仕様に拘泥せず、自由に多くのアイデアを出すべきです。アイデアを数多く出して、良いアイデアとそうでないものを選別する過程で、次第に目指しているデバイスの本質と仕様上の制約が見えてくるのではないでしょうか。Apple Watchの場合は、相互作用する時間と画面サイズでした。

3.限界を知れ
実装したい機能を選別することを通して見えてくる仕様上の制約こそが、そのデバイスの本質的仕様となります。逆に言えば、この仕様上の制約が見えてくるまでは、実装したい機能を考え続けるべきです。
この段階から、ハードウェアの設計を着手するのが適切です。見つけた制約に違反するようなハードウェア作りは、デバイスの存在意義を損ないかねません。

4.限界を超えろ。わけても手で
制約を守りながら、より早く、あるいはより簡単に機能を実行する方法はないか。この段階でソフトウェアとハードウェアの連繋が重要になります。ソフトウェア上の洗練で足りるのか。ハードウェアを設計し直さないと克服できないのか。もっとも創意工夫、クリエイティビティが求められる過程と言ってよいでしょう。
限界をこえるアプローチとして、触覚による操作を見直すことが有効でしょう。脳波によるコントロールやテレキネシスが一般的ではない現状では、結局のところデバイスに触れなければなりません。Apple Watchはこの段階で、Digital Touch、感圧タッチという革新的なアイデアを出しました。

5.神は細部に宿る
かたちや大きさは存在意義や制約を満たしているのか。デバイスを構成するすべての要素について、リファインする余地がないか見直すことを忘れてはいけません。
ウェアラブル端末とIoTデバイスには祖先にあたる装置があります。その装置のディテールは参考になるでしょう。

6.デザインはファッション。ファッションはデザイン。
ウェアラブル端末とIoTデバイスの祖先にあたる装置は、歴史的に洗練されてきた見た目=ルックスを備えているはずです。祖先と同等のルックス上の洗練と多様性を、ユーザに提供する方法はないでしょうか。ウェアラブル端末とIoTデバイスは、もともとはなかったデジタル情報処理機能をモノに付加しています。スマホのようなネイティブな情報端末より一層ルックスやファッション性に配慮すべきです。

7.ユーザ幸福中心設計
コモディティ化したガジェットに溢れかえった現代では、何となく便利そうだったり、何となくカッコいいだけのモノを買ってくれるのは、一部のガジェットマニアだけです。そのデバイスを買って、ユーザがより快適な生活を送れるようになるのか。ユーザに幸福なUXをもたらすデバイスが支持され生き残っていくのでしょう。

 以上の7ヶ条は、デバイス開発者だけではなくユーザにとっても意義のあるものだと思われます。というのも、今後現れるであろうデバイスの出来映えを測る試金石となるからです。

 とは言うものも、これまで連載してきた記事はウェアラブル端末やIoTデバイスの今後の動向に対する関心からだけで書かれているわけではありません。この記事を執筆した本当の目的は、メディア史を独自の観点から振り返ることを通して、コンピュータのメディア体験を再解釈し、その未来を展望することです。Apple Watchを取り上げたのも、あくまで現在を代表するメディア体験を分析するためなのです。連載最後となる次回の記事では、未来におけるコンピュータのメディア体験を見ていきます。

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有名なクラウドファウンディングサイトであるkickstarterにはスマホに接続する「スマート」家電を開発するプロジェクトが多数存在する。画像はスマホから遠隔操作できるやかん「AppKettle」である。スマホからの遠隔操作によって、年にして33時間の時間の節約と節電が可能になるという。このやかんの開発者は『星の王子さま』の有名な一節を知らないのであろうか。地球に来た星の王子さまは、喉の渇きを止める薬を売る物売りに出会った。その薬を飲むと週に53分時間を節約できると言う。「節約した時間は好きなことをすればいいさ」と物売りは言う。「ぼくなら節約した時間でゆっくり水を飲むけどなぁ」と王子さまは思った。このプロジェクトは目標出資額が165000ポンドのうち64876ポンド(目標額の約40%)集まったところでキャンセルされた。開発会社のサイトに行くと2015年末から2016年初頭にはリリースするとアナウンスしている。こちらがkickstarterの該当プロジェクトのページ。

『アップルは音楽ストリーミングの勝者になれない。なぜならまさにアップルだから』海外ブログレビュー

 今日の記事は、海外ブログニュースを紹介する海外ブログレビューです。
今日紹介する記事は、先日発表されたApple Musicについて批評したアメリカ版WIREDのタイトルが挑発的な記事です。

オリジナルの記事は、こちら

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先日催されたWWDC2015において、Appleは新音楽サービスとしてApple Musicを発表しました。このサービスは簡単にまとめると、音楽ストリーミングサービスとデジタルラジオを使った音楽レコメンデーションサービスを統合した有料音楽サービスです。

音楽ストリーミングサービスのセールスポイントは、ユーザがiPhone内にダウンロードした楽曲やストリーミング視聴履歴を分析して、音楽の専門家が楽曲をすすめてくれるところです。ラジオを使った音楽レコメンデーションサービスでは、Beats1と呼ばれるラジオ局からAppleが選出したDJが楽曲を流します。従来のラジオ音楽番組との違いは、ユーザが楽曲の選曲についての設定をすることによって、流れる音楽を調整することができるインタラクティブ性があることです。

アメリカ版WIREDの記事では、音楽ストリーミングとラジオによる音楽レコメンデーションサービスの両方に関して、既にSpotifyやPandora Radioといった先行するサービスのシェアを大きく奪うことはないと評しています。というのも、Apple Musicは先行音楽サービスに対して、価格あるいはサービス内容に大きな差別化を打ち出していないからです。そう評したうえで、Apple Musicはむしろ、AndroidユーザをiPhoneユーザに転向させる効果があると予想しています。Apple MusicはAndroid端末にもリリースされますが、UXの質という点から見れば、Apple MusicはiPhoneで楽しむ方が良いに決まっています。Apple Musicは、音楽市場ではなくスマホ市場のシェアに変化を起こすサービスなのです。

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上のグラフは、2014年のオリコンシングルランキングTOP50における主要アーティストグループのチャートイン頻度を割合を表わしたもの。AKB系とジャニーズ系で80%を占める。下のグラフは、2014年オリコンシングルランキングTOP50のCD売上げ枚数の合計に占める主要アーティストグループの割合を表わしたもの。AKB系とジャニーズ系で90%近くを占める。グラフはこちらのデータをもとに作成した。 

アメリカと音楽市場の事情が大きく異なる日本では、当然ながらApple Musicがリリースされる意味合いも違ってきます。日本におけるApple Musicに対する先行サービスは、You Tubeとニコニコ動画です。Apple MusicをYouTubeおよびニコニコ動画と差別化するポイントは、人間の音楽の専門家がユーザに楽曲をすすめるところです。Apple Musicの日本の音楽市場に対する影響は、楽曲レコメンデーションがどのような方針で行われるかによって、異なってくるでしょう。そうした影響について、少なくとも2つのシナリオが考えられます。

ひとつは、極端な寡占状態になっている日本の音楽業界のニーズがレコメンデーションに反映される場合です。この場合、Apple Musicは日本のメジャー音楽レーベルからシェアを奪うというよりは、コアなファンが新たにApple Music経由で楽曲を視聴するに留まるでしょう。Apple Musicを始めるきっかけも、楽曲レコメンデーション機能ではなく、Connectと呼ばれるアーティストとファンの交流機能を使うことが主要なものとなるでしょう。

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もうひとつのシナリオは、Apple Musicがあくまで音楽性に基づいて楽曲をレコメンデーションする場合です。この場合、日本の音楽市場に多様性を回復させる可能性があります。なぜならアーティストは、既存の日本の大手音楽レーベルを経由することなく、Apple Musicというしがらみが少ないプラットフォームを利用して直接ファンを獲得できるようになるかも知れないからです。

Apple Musicが日本の音楽市場の寡占状態を助長するか、あるいは解体するかは予断を許しません。ひとつ言えるのは、日本のコンテンツ産業において音楽業界が最もガラパゴス化が進んでいる市場であることです(例えば映画では、現在でもハリウッド映画がランキングの上位に表れます)。上に挙げたふたつのシナリオとは別に、そもそも閉鎖的な日本の音楽業界においてApple Musicがユーザを獲得できない可能性がもしかしたらいちばん可能性が高いかも知れません。Apple Musicをもってしても、このガラパゴス状況に風穴を空けるのは容易ではない、と言わざるを得ないのです。

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『アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか?』感想

 今日の記事は、書籍を批評するブックレビュー記事です。
レビューする書籍は『アップル、グーグルが神になる日 ハードウェアはなぜゴミなのか』です。

アップルグーグルが神になる日 

総合評価 ★★★☆☆ (星5つ満点中星3つ)

書籍のタイトルからは直観的に分かりませんが、IoT(Internet of Things モノのインターネット)についての本です。本の内容は、タイトルの表現が何を言っているかを説明するば要約できます(以下、批評する書籍を便宜上『アップル〜』と略記します)。

本の主張はふたつに集約できます。ひとつめは、BLEやiビーコンといった新しい通信技術が開発されたことにより、生活家電間の連繋=IoTが可能となることから、ビジネスモデルが変化することです。IoTが可能となると、個々の製品の機能より、製品間で連繋することによってユーザに提供できるサービスがセールスポイントの中心となります。そして、個々の家電を製造するメーカーより、IoTを可能とするプラットフォームを構築する企業こそが市場の覇者となるのです。ユーザは、IoTを可能とするプラットフォームを保有する企業の良き消費者であれば一定の恩恵に与ることができますが、プラットフォーム提供企業が定めた規則に違反すれば、そうした恩恵を受けられなくなります。プラットフォーム提供企業とユーザの関係は、かつて宗教が政治と経済を治めていた頃の宗派と信者の関係に似てきます。以上のことが「アップル、グーグルが神になる日」の真意です。

ふたつめの主張は、IoTが実現した暁には、ユーザにとって真に重要なのは個々の家電ではなく、IoTによって共有されているユーザデータとなります。それゆえ、ネット上にクラウドデータとして存在しているユーザデータの同一性さえ確保されていれば、そうしたデータの出入り口でしかないハードウェアは廃棄されてもよいものとなります。ハードウェアの実質的な寿命は、せいぜい次回のアップデートまでに過ぎないのです。以上が「ハードウェアはなぜゴミなのか」の真意です。

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ブログ作者のとしては、ひとつめの主張にはおおむね同意します。ITサービスを評価する尺度は、高品質•多機能を謳いあげるユーティリティから、使い勝手=ユーザビリティ、さらにはサービスがもたらす体験がユーザを満足させるかというユーザエクスペリエンス=UXに移行しているのは、もはや周知の事実です。にもかかわらず、『アップル〜』ではIoTの実現によって可能となるUXに関しては、現時点では多いとは言えない事例と書籍作者のおもいつきの羅列に留まっている印象があります。もっともIoTが普及していない現時点において、IoTによって可能となるUXを体系的に分析することを求めるのは、少し酷なのかも知れません。

ふたつめの主張に関しては、ブログ作者は多いに反対せざるを得ないです。というのも、IoTをも含めたITサービス全般がもたらすUXの性質を決定する大きな要因に、ハードウェアデザインがあるからです。ハードウェアは、ユーザとデジタルデータの相互作用のあいだにある透明な窓ではありません。ハードウェアは、ユーザがITサービスを享受する際の体験を特徴づけるメディアなのです。メディア論者のマクルーハンの有名な言葉で「メディアはメッセージである」をもじって、「ハードウェアはメッセージである」と言った方が、ブログ作者が言いたいことが伝わるかも知れません。そして、アップルとはこの「ハードウェアのメッセージ」を作るのが世界一うまい企業なのです。
 ※あえて厳密を期せば、「ハードウェアのメッセージ」という表現で「ハードウェアが物体化するユーザインタフェースがもつアフォーダンス」を言おうとしています。

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ブログ作者としては、IoTが普及する際に直面する困難とは、家電間の連繋を最適化するハードウェアデザインを設計することにあると捉えています。既にリモコンで操作しているエアコンや、(『アップル〜』の作者がしきりに引き合いに出す)比較的ユーザが操作するタイミングの少ない照明をIoT化するならば、IoT化したい家電をスマホで操作できるようにすれば実現すると思われます。しかし、キッチン器具のようなユーザが手で操作するような製品をIoT化する時には、スマホディスプレイで一元管理するアプローチでは失敗するでしょう。食材の温度を計測するセンサーをフライパンに実装したとして、その温度をスマホに表示するのは余りに馬鹿げた設計です。IoTを万物をスマホに連繋させることとして解釈することの弊害は、例えばコンピュータ科学者の大家ネグロポンテもTEDで指摘しています(その時の動画は、こちら)。

『アップル〜』は、IoTがもたらすUXの掘り下げが浅いことと、ハードウェアのメッセージという論点が見事に欠落しているので、総合評価は星5つ中星3つです。とは言え、この書籍はIoTを可能とする技術的背景を知るには、よくまとめられた良書だと思われます。

手で操作する製品をIoT化する際のデザインアプローチに関しては、本ブログの連載記事『表面世界の行方』の来週の掲載記事で詳しく論じますので、興味のある方は読んで頂けると嬉しいです(以上、ステマでした(笑))。

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表面世界の行方 (12) TUIの世界
表面世界の行方 (13) AppleWatch開発秘話

表面世界の行方 (13) AppleWatch開発秘話

 前回の記事では、ユーザとデジタル情報の相互作用を触覚によって実現するTUIを確かめました。
今回の記事では、AppleWatch開発秘話を読み解くことで、TUI的発想の実践例を確認します。

この連載記事のはしがきは、こちら
この連載記事の目次は、こちら

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機械式時計の主なイノベーションは18〜19世紀に活躍した時計技師アブラハム=ルイ•ブレゲが起こした。彼は時計の歴史を200年進めたと賞賛されている。彼が起こしたイノベーションのひとつに、時計に内蔵されたハンマーを打つ音で時刻を知らせるミニッツリピーターがある。この機能は、文字盤が見えない暗闇であっても時刻が分かるようにするために発明された。画像はミニッツリピーターのムーブメント。腕時計が製品化されるきっかけは、砲撃のタイミングを測るために砲兵が懐中時計を腕にくくりつけたことにあると伝えられる。AppleWatchは、ユーザの注意をポケット=懐中にあるiPhoneから手首に戻そうとしている。

 US 版WIREDは、2015年4月2日「iPhoneキラー:Apple Watchの隠された歴史」と題された記事(邦訳記事はこちら) を掲載しました。この記事を読むと、AppleWatchがiPhoneをカイゼンして作られたのではなく、発想の飛躍があったことが分かります。

 前CEOであったスティーブ•ジョブズが死去して間もなくスタートしたAppleWatchの開発は、まず最初にApple製腕時計のレゾンデートル=存在意義を定義することから始まりました。その存在意義とは、今や一種の中毒の感もあるiPhoneに依存したユーザを、iPhoneから解放するデバイスであるとされたのです。既に発売されている凡庸なウェアラブル端末の特徴は、スマートフォンと機能連繋する言わば身に着けるスマートフォンです。対して、Apple Watchはスマートフォンに取って代わる腕時計型の何かです。まさに” Think difference”だったのです。

 ”Think difference”の姿勢は、新デバイスを開発する手順としてソフトウェア=機能をリストアップすることを優先したことにも表れています。腕に着けるデバイスだからと言って、既存の腕時計と同じ形状である必然性はありません。既存の腕時計のイメージに捕われてしまうと、「高性能な腕時計」を発想してしまう恐れがあります。AppleWatchは「腕に着けるAppleのテクノロジー」であって、「Apple製腕時計」ではないのです。

 Apple Watch に実装する機能をリストアップするうちに開発チームは、腕に着けるというコンセプトに由来するふたつの制約に気づきました。ひとつめの制約は、腕を上げてディスプレイを見つめられる時間は、5秒程度が最適で長くとも10秒以内であることです。もうひとつの制約は画面が小さいことです。そして、小さい画面に対してGUI的な発想で画面を設計すると視認性が低下するか、複雑な操作をユーザに要求してしまうので、Apple WatchのUI設計にはiPhoneとは異なるアプローチが不可欠でした。

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共感覚とは特定の知覚が質の異なる知覚を誘発する現象である。代表的な共感覚現象には、色を見て音が聞こえたり、ある文字に色の知覚が伴うものがある。抽象絵画の創始者であるカンディンスキーは音を聞いて色を感じる共感覚を持っていた。彼は絵画は具体的なモノを描写しない音楽のようにあるべきだと考えていた。画像はカンディンスキー作「穏やかな緊張(mild tension)」。彼の絵は、2012年Appleデザイン賞を受賞したiOSアプリMusynの画面を連想させる。Musynはタップすると音がなる多数のアイコンを画面に配置して楽曲を制作するアプリである。

 開発チームは、ふたつの制約を克服するUIを作る際に、腕時計型端末は常に手首に接しているという特徴に着目します。デバイスが常時接している手首が何かを触知できれば、ディスプレイに通知を表示する必要がないのです。こうして生まれたのがDigital Touchです。この機能を開発する過程では、あるタップと音の組み合わせがどんな視覚的イメージを喚起するかという共感覚的なテストを繰り返しました。

 画面サイズに由来する表示可能な情報量の制約は、タップ操作を分節化することで対処しました。その機能が感圧タッチです。画面をタッチする圧力を検知することで、画面にメニューアイコンを表示することなく、ユーザをサブメニューに誘導できるのです。サブメニューを表示するためにユーザが行うことは、画面を強く押すだけです。

 Appleの細部へのこだわりは徹底しています。小さい画面でも高い視認性が得られるように、Apple Watchのために新しいフォントも発明しました。新しいフォントを設計する際には、腕時計の文字盤の字体を参考にしました。

 身に着けるテクノロジーとは、同時に身に着けるファッションであることも意味しています。Appleは本来、製品ラインナップを絞り込んでユーザに最良のものを届けることをポリシーにしていました。しかし、ファッションアイテムでもあるApple Watchでは従来のポリシーを覆して、ユーザに多くのオプションを与えることをしました。Apple Watchでは、価格、サイズ、バンドの組み合わせによってユーザの個性を表現できるようになったのです。

 こうして完成したAppleWatchはユーザに何をもたらすのか。その答えは、WIREDスタッフが記事を執筆するにあたりAppleのヒューマンインタフェースグループを率いるアラン•ダイにインタビューしたときの様子に表れています。ダイ氏の自宅で行われたインタビューは、彼が時おりApple Watchを一瞥しながらも、彼も彼のそばにいた子供たちも受信したメッセージに気をとられることなく進められました。そして、インタビューが終わるまで一度もiPhoneを見ることはありませんでした。AppleWatchは、少なくともiPhoneよりはリアルな時間を過ごす余裕をもたらすのかも知れません。

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Apple参入前の世界の時計メーカーのシェア順位は、上位がスイスの時計メーカーが占めており、1位は大衆時計から高級時計を手がけるSwatchグループである。AppleWatchの販売個数は、控えめに見積もっても2015年度に1000万個と予想されている。簡便化のため1個の価格を500ドルとしてAppleWatchの売り上げを試算すると、Appleは時計業界4位のメーカーになる。上位3社は依然としてスイスメーカーが占めているものも、参入前はアメリカ国籍企業では1位だったFossilを抜くことになる。また日本国籍メーカーのシェア合計と、Apple単独のシェアが等しくなる。この試算はかなり控えめなものである。グラフの作成には、こちらの統計記事とこちらの経済記事を参考にした。



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吉本幸記

Author:吉本幸記
元エンジニアのフリーライター。テクノロジー系の記事を執筆している。アートにも関心がある。美術検定3級取得

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