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VR劇動画のナラトロジー ④ ストーリーシェアリング

今回の記事では、前回の記事で論じた「カメラ人称の主観化」が起こっているなかで違和感なくシーン転換を実行する技法であるストーリーシェアリングを説明します。

ストーリーシェアリングとは


VR劇動画においてはカメラ人称の主観化が起こるので、伝統的劇動画のように一意なコンテクストの指示に基づいたシーン転換も、時空の大きな飛躍を伴うシーン転換のどちらも困難です。

翻って、ではなぜ伝統的劇動画では時空を超えたシーン転換が可能なのでしょうか。その理由は、伝統的劇動画では一意なコンテンツの指示が可能であること、さらには三人称カメラによる客観描写ができるからです。

VR劇動画では、視野のインタラクティブ性から一意なコンテクストの指示も、完全な客観描写も不可能です。では、VR劇動画ではシーン転換は不可能なのでしょうか?

VR劇動画におけるシーン転換を実行するには、伝統的劇動画では当たり前だった「作り手が視聴者にコンテクストを提供する」という暗黙の了解から脱却しなければなりません。VR劇動画におけるシーン転換を成功させるためのひとつのアイデアとして、ストーリーのコンテクストを作り手と視聴者が共有=シェアする「ストーリーシェアリング」があります。

この「ストーリーをシェアする」というアプローチは、YouTubeのチャンネル「Google Spotlight Stories」で紹介された《HELP》を製作している(『ワイルド・スピード MAX 』等の監督として知られる)Justin Linがブログニュースサイトのインタビュー記事において述べています。ただ、インタビュー記事においては、「シェア」という言葉を使って感覚的に述べるに留まっています。以下に論じることは「ストーリーをシェアする」という事態をブログ作者なりに、整理し再構成したものです。

「VR劇動画に特有な視野のインンタラクティブ性を認めたうえで、作り手は視聴者が持っているストーリーに関与する自由を共有しながら、その自由があったとしてもコンテクストが破綻しないように映像を編集する」、これがストーリーシェアリングの大まかな定義です。

論より証拠というわけではありませんが、定義について説明を重ねるよりも具体例を見た方がすぐにわかります。

視点のシェア




《HELP》では、大胆なカメラドリーが行われています。このカメラドリーの結果、視聴者は視野の自由を奪われることなく、次々とシーンの転換を体験します

もしカメラドリーではなく、カメラのスイッチでシーン転換をはかったとしたら、視聴者はテレポーテーションしたかのような違和感を感じることでしょう。

カメラドリーによって、作り手と視聴者が共有しているのはカメラの位置です。もっとも、カメラ位置の共有は、《HELP》に限らずすべてのVR劇動画で生じていることです。

《HELP》の表現技法が巧みなのは、カメラドリーを用いてシーンの転換をはかると同時に、視聴者の視線の誘導も行っていることです(視線誘導については以前の記事を参照)。カメラドリーによって、視聴者は異なるシーンに移動すると同時に、異なるイベントを体験して、各シーンとイベントを統合するストーリーを形成するのです。


余談ですが、《HELP》を何度か見て、ブログ作者はVR劇動画ならではの鑑賞法に気づきました。カメラドリーによる視線誘導にあえて逆らって、作り手がおもに想定している視野とは別のアングルから動画を見るのです。少なくとも《HELP》の場合は、同じ動画を視聴しているにも関わらず、注目するポイントを変えただけでまるで違う動画を見ているように感じました。《HELP》では、迫り来るエイリアンに注目するか、そのエイリアンを迎え撃つ人間に注目するか、という2通りの見方ができます。そのどちらの見方でもストーリーが破綻することなく鑑賞することができます。この「同一作品における複数のコンテクストの許容性」は、VR劇動画を進化させる方向性のひとつかも知れません。

視野域のシェア




その圧倒的な没入感を生かすため、VR動画では動画の再生時間と同じ長さの出来事を見せるライブ動画が多数を占めています。最近よくテレビで目にするVRヘッドセットを使ってジェットコースターを疑似体験させるVR動画は、そうしたVRライブ動画の典型例です。

以前の記事でも批評したVR劇動画《Pearl》は、VR動画では珍しい(と思われる)動画の再生時間と表現しているストーリーの時間幅が一致しないものです。ところで、この再生時間と表現するストーリーの時間幅の不一致こそ、複雑なストーリーを表現している伝統的劇動画のスタンダードなのです。

《Pearl》において動画の再生時間と表現するストーリーの時間幅の不一致を可能としているのが、視野域のシェアです。

「視野域」とは、360度見回すことができるVR動画において、任意のカメラ位置から見える範囲のことを意味しています。視野域は、カメラ位置からちょうど半球上に広がっている範囲をイメージすれば、理解できるかと思われます。

《Pearl》では、視野域はある一台の自動車内に固定されています。視聴者は、動画の作り手と言わば視野域をシェアしているのです。この固定された視野域から、自動車内から見える光景の移ろいを目撃することを通して、父と娘の20年近くにわたる日々を見届けるのです。

こうした時間の飛躍を伴うシーン転換が可能になったのは、視野域を固定することによって、伝統的動画における定点観測と同様の効果が得られたからです。時間の異なるシーンに移っても、視聴者は同じ自動車内からの光景であると了解しているので、違和感なく5分に圧縮された20年の日々に没入できるのです。



蛇足ですが、《Pearl》に見られる定点観測的VR動画という形式は、応用範囲がかなり広いと思われます。例えば、住宅のVR動画CMを作ろうとするならば、家のどこかを固定された視野域にして、子供が成長する姿を見せれば、簡単に感動的な動画に仕上がることでしょう。

ストーリーシェアリングは、伝統的劇動画においては作り手の専有物である撮影あるいは編集の一部を、視聴者とシェアすることで実現するものです。技法の特徴としては、以前の記事で論じた視聴者の自由を制限する視線誘導とちょうど反対の価値をもちます。

撮影あるいは編集の一部を視聴者とシェアすることは、作り手の自由が奪われるという側面があります。ストーリーシェアリングという技法を突き詰めて、果たして伝統的劇動画に匹敵する自由なシーン転換を実現できるかは、現時点では答えることは不可能です。

「VR劇動画のナラトロジー」の射程


最新の映像テクノロジーであるVRヘッドセットによる動画視聴によって、伝統的劇動画を鑑賞することは可能です。しかし、そんな行為にいったいどんな意味があるのでしょうか。少なくとも、ブログ作者はそんな行為に意味を見出せないので、そんなことはしようとも思いません。

VR動画の最大の特徴は、視野のインタラクティブ性、言い換えれば視線の自由度にあります。今後、この特徴を生かしたVR動画が数多く制作され、VR動画は映像文化のジャンルとして繁栄する確率はかなり高いと思われます。

だがしかし、VR動画によってストーリーを表現しようとすると、ストーリーテリングとインタラクティブ性の対立を調和させるという困難な問題に挑まなければなりません。この問題は、ひとつの作品ごと、さらにはワンシーンごとに解決しなければなりません。

今後VR劇動画というジャンルが発展すると仮定すると、その発展過程は対立するストーリーテリングとインタラクティブ性の調和が多様になる歴史として記憶される、と言えます。

4回にわたって論じてきたVR劇動画のナラトロジーとは、ストーリーテリングとインタラクティブ性の調和を主題化して、体系的に整理するVR劇動画の映像文法あるいは修辞学を志向した言説です。

それゆえ、VR劇動画のナラトロジーは未完の映像理論です。今後、斬新な表現をそなえたVR劇動画が登場するたびに、記述の追加•更新が必要です。

今まで長々と読まれるあてもない記事を書いてきたのは、ブログ作者がVR劇動画に法外な期待を寄せているからです。

もしタイタニックの船首から大海原を見渡せたら、
もし天空に浮かぶ島を避けながら飛ぶ飛行機の操縦席に座れたなら、
もし火を噴くギターをかき鳴らすギタリストが乗る改造車が迫り来るのを間近で感じられるなら...


そんな妄想が頭から離れないのです(ひとによっては「美少女が自分の回りで踊り舞う」という妄想が方が切実かも知れません)。

ブログ作者自らがおのれの妄想を実現するためにVR劇動画制作を始めることはできなくとも、VR劇動画が進化するために一人の視聴者として市場に参加し、また一人の批評家としてつまらない方向に進化しないようにイチャモンをつけることはできそうです。

他の記事に言えることですが、ブログ作者は記事が読まれるかどうかはあまり気にしていません。ただ書きたいから書いているのです。それでも、自分以外の誰かの役に立つことがあるのが、インターネット普及以降の世界(=AI:After Internet)なのです。

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吉本幸記

Author:吉本幸記
元エンジニアのフリーライター。テクノロジー系の記事を執筆している。アートにも関心がある。美術検定3級取得

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